たいてい呟いているが、たまに叫んだり謝ったり
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こないだのメイキング披露の続き、背景等の画像加工について。
…と偉そうに書きましたが、基本は地色・地模様を全面ベタ塗りしたレイヤを一番下層に置いて、その上にまた別の効果を付けたレイヤを被せてるだけです。
自分でもどうやったか忘れそうなくらい適当にwwww(つまり忘れたんです)
というわけで予定を変更して遅すぎる正月SSをお送りします。
朔眠小咄『写真の中』…御年賀絵のストーリーなので、これが背景と言えなくもない(開き直った!!)
今回、御年賀絵で幽白(ていうか朔眠)以外の作品も題材としましたので、自分でも驚愕のクロスオーバーな話になってます。
興味がありましたら下記のタイトルから入ってご覧下さいまし。
…と偉そうに書きましたが、基本は地色・地模様を全面ベタ塗りしたレイヤを一番下層に置いて、その上にまた別の効果を付けたレイヤを被せてるだけです。
自分でもどうやったか忘れそうなくらい適当にwwww(つまり忘れたんです)
というわけで予定を変更して遅すぎる正月SSをお送りします。
朔眠小咄『写真の中』…御年賀絵のストーリーなので、これが背景と言えなくもない(開き直った!!)
今回、御年賀絵で幽白(ていうか朔眠)以外の作品も題材としましたので、自分でも驚愕のクロスオーバーな話になってます。
興味がありましたら下記のタイトルから入ってご覧下さいまし。
朔眠小咄『写真の中』
元日、朔夜は新しい羽織袴を着込んで調査課分室に現れた。
折に触れては記念写真を撮りたがるという人がいるが、審判の門の霊界人は一概にその傾向が高いらしい。
時が過ぎると共に埋没していく想い出を惜しむという人間と同じような感傷は、膨大な年月を生きる霊界人には殊更で、また死者の霊を裁くにあたり、元来『記録をする事』が主業務である故もあろう。
その記録がかつての戦争の、また、やがての騒乱の原因となるのだが…それはまた別の話である。
記念写真を撮るのは調査課分室でも例外ではなく、特に正月、長であるコエンマから部下達へお年玉として贈られた晴れ着…『福』と『服』を掛けた洒落である…を着て想い出のヒトコマを作る事は慣例となっていた。
「アズライト! 良いところに来た、手を貸せ!」
事務所の扉を開けるや飛んで来た声。 新年の一番乗りは柊であったらしい。
朔夜が嫌な顔をせずに何があったと駆け寄ったのは、柊が一人ではなく、応接ソファに誰か倒れ込んでいるのも見えたからである。
背の高い痩せた男で、後ろで一括りにした長い髪と眼鏡が特徴的だった。
「…はぐれ霊か…?」
霊が案内人を通さず霊界へたどり着くなど、滅多に無い。
予定外の死で行き場がなく甦生させたという浦飯幽助の事例ほどではないにしても、稀有な事であった。
よく暗黒界に落ちなかったものだと思いながら近くに寄るにつれ、朔夜は『彼』がただの霊ではないと気付く。
それが、柊が朔夜の手ですらを、誰かの助けを必要とした理由だったのだと。
「この霊気の感じ…これは…生き霊?
でもおかしい、この霊の『命綱』…どこに繋がっているのかが分からない…」
「貴様でも先を辿れないのか? いよいよ困ったな。
そう、この霊から出ている命綱自体はしっかり視えている…確かにこれは生きている人間が霊体だけ抜け出してきたものだ。 なのに繋がる先、肉体がどこにあるのか分からない。
いきなり降ってきたので、とりあえず保護してここへ運び込んだんだが」
「最良の判断だと思うよ…放っておいて地獄にでも転がり落ちたら大変だ。
…いや…既に生き地獄にいたみたいだね、この人…可哀想に」
ひょろ長いと形容できる身体から発せられる微弱な霊気に混じって感じ取れるのは彼の深い絶望、そして…
「嫌な酒気だな…何か辛い事があったか、ヤケ酒を飲んで急性アルコール中毒を起こしかけているというところだろう。 文字通り浴びて飲んでいたな、酒臭い…」
諸々の事情で朔夜は酔っ払いが苦手だった。
「この匂い、高い酒のようだな…勿体ない、現実逃避の為に酔うなら安い合成酒を寝ゲロ吐くまで飲んで泣いて次の日から頑張って、頑張った自分へのご褒美に勝利の美酒をだな…」
「柊君、いつもそんな事やってたのか…ていうか、匂いだけで少し酔った?
酔い醒ましに、少し寒い思いをしてもらおうか」
冷ややかにそう言うが早いか、朔夜は柊の着物を剥ぎ取る。
「ななな何をする! 破廉恥だぞアズライトー!!」
「うわ、正月からひどいパンツだな…股間に赤丸とか有り得ない」
「正月だから日輪の紋様だ! それよりなぜ脱がしたし」
「この人の着替えにね」
「そっちも脱がすか、破廉恥漢め」
「この酒臭い人を放っておいたら二次災害の危機に直面する、主に僕が。
とりあえず柊君は、扉の向こうのカメラを構えた小鼠を捕まえてくれ」
細く開きかけていたドアが、慌てて閉められた…しかし、柊の手が一瞬早く届いていた。
「死神レナか!!」
「いやぁぁぁ! 変態!!」
「ちょっと待て誤解だー!!」
冬空の下、パンツ一丁の男が金髪の美少女を追い回す…明らかにアウトな光景は、幸いながら他部署の者に目撃される事は無かった。
柊がレナを…いや、レナが柊を捕まえて事務所へ戻って来た時、目を覚ました生き霊の男は朔夜とすっかり打ち解けて、一緒に餅を食べていた。

「朔夜、こっちに変態押し付けておいて、なに和んでるのよ!」
「レナ、変態を返り討ちにしておいて、なに怒ってるの?」
柊は顔に紅葉のような手形を付けられ、しかも何故か牛の着ぐるみを着せられていた。
「朔夜君、真顔で尋ねるが…何で牛なんだい?」
生き霊の男が首を傾げ、傍らの朔夜に問う。
彼は柊の着物を持ち主以上に着こなし、バサバサだった髪も綺麗にポニーテールに結い上げていた。
「今年の干支だよ、片桐。
君の生きる時代には、もう廃れているのかな…『今』は君にとっては遥かな過去だからね」
優しげな笑みまで浮かべてそう答えた朔夜の眼はしかし、彼の顔よりもサラサラと揺れるポニーテールの髪を見ていた。
「干支か…古い日本の風習で、12星座のようなものだと聞いているけど。
この時代には普通にあるんだね」
「まあ、特に霊界はここ数百年、日本大流行中だから。 指導者が日本贔屓でね」
「だとすると、あの部隊も和の色に染まるのかなぁ…」
生き霊のくせに旨そうにおしるこを食べながら、彼…片桐はそう言って感慨深げに辺りを見回す。
ここが霊界で、彼は肉体からはぐれて生き霊となっている…という事は朔夜が包み隠さず伝えた。
しかも話をするうちに、どうやら300年あまりの時を遡行してこの時間軸へ迷い込んだらしい事が判明した。
だが片桐はそれを『夢を見ているんだな、僕は…でも面白い夢だ、楽しんでいくよ』と勝手に解釈してマイペースに振る舞うので、朔夜もそれ以上は何も言わない事にしたのだった。
「あの二つ重ねて蜜柑を乗せた餅、叔父の家で見た事があるよ…蜜柑だけ取って食べたら叱られたなぁ、しかもすごく酸っぱかった」
「それで蜜柑が嫌いになった?」
「酸っぱい蜜柑は僕の敵だね。 一度友人と喧嘩をした時、あんまり腹が立ったから彼のヘルメットに酸っぱい蜜柑を詰めてやったんだ。
格納庫は薄暗いから、気付かずにヘルメット被ってね…彼、涙目だったよ」
「地味に非道ね…蜜柑の汁、眼に入ったら痛いわよ」
嫌がらせのレパートリーの話に、レナが活き活きした顔で入り込んでくる。
「以来彼は、いつか愛機のエンジンにまで蜜柑を詰められるんじゃないかと心配するようになってしまってね」
「確かにそれは軽くトラウマだな…笑えるが」
柊は、次に朔夜かレナと揉めた時は自分の持ち物に何も詰められていないか逐一確認する必要があるなと思いながら引き攣った笑みを浮かべた。
「…まあ、その話で笑ってられた頃は遠くなってしまったけど…」
急に表情を曇らせて俯いてしまった片桐に、朔夜はそっと訊く。
「…酒で現実逃避をした理由とも関係がある?」
「逃避…僕が?
…確かに、何だか自暴自棄に酒を飲んだ覚えはあるな…
彼女みたいに、飲めば楽になるのかと思って…」
「君が今のこの奇妙な『夢』を無理矢理楽しもうとしているのも、逃げているからじゃあないのかな」
「…まだ整理が付かないんだ。 何があったのかすら、よく分からなくなって…
あの青年は彼女の事を何だと言っていた?
彼女は、何故…ッ……痛…痛い、頭が…」
「肉体の方の苦痛が影響しているようだね。 記憶障害も出ている…
でも、まだ『命綱』はしっかりしているから死にはしないさ。
帰ろうという意思さえあれば、すぐ戻れるよ。
記憶も、肉体に戻ればはっきりするだろう」
「…思い出したくないな…嫌だ、戻りたくない」
「じゃあ…死ぬ?
さっきから、君を呼ぶ声が聞こえるのに。
僕は君を『片桐』と呼んでいるけれど…それは君をそう呼ぶ声が聞こえたから。 だから君の名を知っていたんだよ」
「…『カタギリ』と…僕を名字で呼ぶのは…
彼、か…!?」
「もしかして、蜜柑を詰めた相手? 早く行かないと、また喧嘩になるんじゃあないのかい。
言い忘れたけれど、生き霊が生きていられるのは約24時間…あんまり肉体を留守にしていると命綱が解けてしまうからね」
「もう彼とは、下らない喧嘩をして笑えないかもしれないんだよ…」
「でも、必要とされているんじゃあないのかい」
「…そうかな…
まだ、そうなのかな 『カタギリ! 居るのは分かっているぞ! 私は我慢弱い、開けないのなら扉を壊す!!』 …ああ、僕にも聞こえた…
参った、怒ってるなぁ」
苦笑いをした片桐の身体が、ふわりと浮いた。
「帰る気になったようだね」
「…ああ、戻ってみるよ。 思い出したら後悔するのかもしれないけど…呼ばれてるからね。
じゃあ…また。
ここは霊界だと言ってたね…死んだら、また君達に会えるんだろう?」
「忘れているかもね、君が死ぬのは300年以上も先だ。
それに、肉体に戻って目覚めれば、ここでの事は覚えてはいない。 だってほら、これは夢だし。
…さようなら、だよ」
「…そうだった、凝った設定の夢だなぁ…
でも…また」
「…うん…いつか、また」
互いに手を振り、笑い合う。
そして片桐は、すう、と消えていった。
「でも、当分は来ないで…」
祈るように呟いた朔夜の声は、届いたろうか。
「…貴様が彼に妙に優しいのは何故だ、アズライト」
片桐の為に、朔夜によって身ぐるみ剥がされ、レナに着ぐるみを着せられ、一人で割を食った形の柊は少し拗ねたように言う。
「嫉妬?」
「撃つぞ」
「無駄だと知っているよね、それに正月だ…やめてほしいな、柊君。
そうだな、彼に優しくしたのは…ポニテだから、いや、お客さんだし」
「いかにも付け足しだな…ポニーテールの髪なら誰でも良いのか貴様は。
貴様が片桐氏の相手をしてる間に、当事務所のポニテはもう来てるぞ。 コエンマ様もいらした」
「あ…いつの間に…」

賑々しい声の聞こえる方を見やれば、秘書のあやめや青鬼ジョルジュと写真を撮り合い、カメラに向けて笑顔を咲かせるぼたんと、澄まし顔で隣に並ぶコエンマがいた。
時間遡行のはぐれ霊が出現したという異常事態、そもそも見慣れない人物が事務所にいたというのに、全く気にもせず盛り上がっている暢気な面々に朔夜は苛立たしげな溜息を吐く。
「正月早々だけど、怒ろうかな…」
「大事には至らなかったし、片桐さんも無事に帰せたんだから良いじゃない。
正月からつまんないヤキモチ焼いてるんじゃないわよ」
「焼いてない」
「いいや、かなりの火力で焼いていると見た…
少 し 寒 い 思 い を し た 方 が 良 い ん じ ゃ な い の か ?」
「…ハッ!? その手に持ってるのは…!!」
柊の発する不穏な霊気を察して振り向きざま飛び退いた朔夜は、彼が手にしている白黒斑模様の衣装に青ざめ、思わずレナを見る。
「うふふ、私からのお年玉よ。 柊、手伝いなさい!!」
「合点承知、これで溜飲も下がるというものだ!」
じりじりと間合いを詰められ、ついに壁際に追い込まれる。
それでも朔夜は大窓のカーテンの中へ逃げ込み、抵抗を続けた。
「最悪のタッグだよ、お前ら!! ちょ、やめろ! 離せぇぇぇ!!」
レールから外れるカーテン、その下で、朔夜が断末魔を叫んだ。
無理やり着ぐるみを着せられて半泣きだった朔夜が、困ったような照れたような半笑いへとその表情を変化させたのは、ぼたんが揃いの衣装に着替えて来た時だった。

「私からのお年玉だって言ったでしょ」
「今日の貴方が朔夜さんに妙に優しいのは何故なの、レナ」
「そんなの決まってるじゃない、あやめ…後で突き落とすと楽しいからよ」
「で、あのオチには満足なんですか~?」
「もちろんよジョルジュ、良い初笑いだったと思うわ。
…柊、貴方には貧乏籤を引かせてしまったけど」
「俺よりもコエンマ様がお気の毒だが…」
何を着せても似合うと褒めちぎった朔夜と、色気が足りないと露出を要求したコエンマは、共々ぼたんの恥じらい攻撃…櫂による棒術…の餌食となり、絨毯に沈んでいた。
「…可愛いは正義…」
「…うむ同感じゃ…」
「んもう、朔夜もコエンマ様も! まだそんな事言って…恥ずかしいじゃないですか!!」
ビュン、と風切り音、次いでゴツン、と打撃音…
「…ウゴァ!!!!」
「起きたか、カタギリ」
「うう…久しぶりの挨拶がそれかいグラハ… な…何だい、その格好…!!!」
「…新型の開発を急いでもらいたい。 貴官の力が必要だ…待っている。
それだけ言いに来た…然らば」
「………ああ…何か面白い夢を見ていた筈なのに…今のですっかり忘れてしまったじゃないか…
まったく、君って奴は…本当に予測不能な人だよ…
ふ…ハハハ…ハハハハハッ…
……ソレスタルビーイング…」
荒れた部屋、壁に飾っていた写真の額が床に落ちて割れていた。
写真の中の過去には戻れないのだというように。
―了―
元日、朔夜は新しい羽織袴を着込んで調査課分室に現れた。
折に触れては記念写真を撮りたがるという人がいるが、審判の門の霊界人は一概にその傾向が高いらしい。
時が過ぎると共に埋没していく想い出を惜しむという人間と同じような感傷は、膨大な年月を生きる霊界人には殊更で、また死者の霊を裁くにあたり、元来『記録をする事』が主業務である故もあろう。
その記録がかつての戦争の、また、やがての騒乱の原因となるのだが…それはまた別の話である。
記念写真を撮るのは調査課分室でも例外ではなく、特に正月、長であるコエンマから部下達へお年玉として贈られた晴れ着…『福』と『服』を掛けた洒落である…を着て想い出のヒトコマを作る事は慣例となっていた。
「アズライト! 良いところに来た、手を貸せ!」
事務所の扉を開けるや飛んで来た声。 新年の一番乗りは柊であったらしい。
朔夜が嫌な顔をせずに何があったと駆け寄ったのは、柊が一人ではなく、応接ソファに誰か倒れ込んでいるのも見えたからである。
背の高い痩せた男で、後ろで一括りにした長い髪と眼鏡が特徴的だった。
「…はぐれ霊か…?」
霊が案内人を通さず霊界へたどり着くなど、滅多に無い。
予定外の死で行き場がなく甦生させたという浦飯幽助の事例ほどではないにしても、稀有な事であった。
よく暗黒界に落ちなかったものだと思いながら近くに寄るにつれ、朔夜は『彼』がただの霊ではないと気付く。
それが、柊が朔夜の手ですらを、誰かの助けを必要とした理由だったのだと。
「この霊気の感じ…これは…生き霊?
でもおかしい、この霊の『命綱』…どこに繋がっているのかが分からない…」
「貴様でも先を辿れないのか? いよいよ困ったな。
そう、この霊から出ている命綱自体はしっかり視えている…確かにこれは生きている人間が霊体だけ抜け出してきたものだ。 なのに繋がる先、肉体がどこにあるのか分からない。
いきなり降ってきたので、とりあえず保護してここへ運び込んだんだが」
「最良の判断だと思うよ…放っておいて地獄にでも転がり落ちたら大変だ。
…いや…既に生き地獄にいたみたいだね、この人…可哀想に」
ひょろ長いと形容できる身体から発せられる微弱な霊気に混じって感じ取れるのは彼の深い絶望、そして…
「嫌な酒気だな…何か辛い事があったか、ヤケ酒を飲んで急性アルコール中毒を起こしかけているというところだろう。 文字通り浴びて飲んでいたな、酒臭い…」
諸々の事情で朔夜は酔っ払いが苦手だった。
「この匂い、高い酒のようだな…勿体ない、現実逃避の為に酔うなら安い合成酒を寝ゲロ吐くまで飲んで泣いて次の日から頑張って、頑張った自分へのご褒美に勝利の美酒をだな…」
「柊君、いつもそんな事やってたのか…ていうか、匂いだけで少し酔った?
酔い醒ましに、少し寒い思いをしてもらおうか」
冷ややかにそう言うが早いか、朔夜は柊の着物を剥ぎ取る。
「ななな何をする! 破廉恥だぞアズライトー!!」
「うわ、正月からひどいパンツだな…股間に赤丸とか有り得ない」
「正月だから日輪の紋様だ! それよりなぜ脱がしたし」
「この人の着替えにね」
「そっちも脱がすか、破廉恥漢め」
「この酒臭い人を放っておいたら二次災害の危機に直面する、主に僕が。
とりあえず柊君は、扉の向こうのカメラを構えた小鼠を捕まえてくれ」
細く開きかけていたドアが、慌てて閉められた…しかし、柊の手が一瞬早く届いていた。
「死神レナか!!」
「いやぁぁぁ! 変態!!」
「ちょっと待て誤解だー!!」
冬空の下、パンツ一丁の男が金髪の美少女を追い回す…明らかにアウトな光景は、幸いながら他部署の者に目撃される事は無かった。
柊がレナを…いや、レナが柊を捕まえて事務所へ戻って来た時、目を覚ました生き霊の男は朔夜とすっかり打ち解けて、一緒に餅を食べていた。
「朔夜、こっちに変態押し付けておいて、なに和んでるのよ!」
「レナ、変態を返り討ちにしておいて、なに怒ってるの?」
柊は顔に紅葉のような手形を付けられ、しかも何故か牛の着ぐるみを着せられていた。
「朔夜君、真顔で尋ねるが…何で牛なんだい?」
生き霊の男が首を傾げ、傍らの朔夜に問う。
彼は柊の着物を持ち主以上に着こなし、バサバサだった髪も綺麗にポニーテールに結い上げていた。
「今年の干支だよ、片桐。
君の生きる時代には、もう廃れているのかな…『今』は君にとっては遥かな過去だからね」
優しげな笑みまで浮かべてそう答えた朔夜の眼はしかし、彼の顔よりもサラサラと揺れるポニーテールの髪を見ていた。
「干支か…古い日本の風習で、12星座のようなものだと聞いているけど。
この時代には普通にあるんだね」
「まあ、特に霊界はここ数百年、日本大流行中だから。 指導者が日本贔屓でね」
「だとすると、あの部隊も和の色に染まるのかなぁ…」
生き霊のくせに旨そうにおしるこを食べながら、彼…片桐はそう言って感慨深げに辺りを見回す。
ここが霊界で、彼は肉体からはぐれて生き霊となっている…という事は朔夜が包み隠さず伝えた。
しかも話をするうちに、どうやら300年あまりの時を遡行してこの時間軸へ迷い込んだらしい事が判明した。
だが片桐はそれを『夢を見ているんだな、僕は…でも面白い夢だ、楽しんでいくよ』と勝手に解釈してマイペースに振る舞うので、朔夜もそれ以上は何も言わない事にしたのだった。
「あの二つ重ねて蜜柑を乗せた餅、叔父の家で見た事があるよ…蜜柑だけ取って食べたら叱られたなぁ、しかもすごく酸っぱかった」
「それで蜜柑が嫌いになった?」
「酸っぱい蜜柑は僕の敵だね。 一度友人と喧嘩をした時、あんまり腹が立ったから彼のヘルメットに酸っぱい蜜柑を詰めてやったんだ。
格納庫は薄暗いから、気付かずにヘルメット被ってね…彼、涙目だったよ」
「地味に非道ね…蜜柑の汁、眼に入ったら痛いわよ」
嫌がらせのレパートリーの話に、レナが活き活きした顔で入り込んでくる。
「以来彼は、いつか愛機のエンジンにまで蜜柑を詰められるんじゃないかと心配するようになってしまってね」
「確かにそれは軽くトラウマだな…笑えるが」
柊は、次に朔夜かレナと揉めた時は自分の持ち物に何も詰められていないか逐一確認する必要があるなと思いながら引き攣った笑みを浮かべた。
「…まあ、その話で笑ってられた頃は遠くなってしまったけど…」
急に表情を曇らせて俯いてしまった片桐に、朔夜はそっと訊く。
「…酒で現実逃避をした理由とも関係がある?」
「逃避…僕が?
…確かに、何だか自暴自棄に酒を飲んだ覚えはあるな…
彼女みたいに、飲めば楽になるのかと思って…」
「君が今のこの奇妙な『夢』を無理矢理楽しもうとしているのも、逃げているからじゃあないのかな」
「…まだ整理が付かないんだ。 何があったのかすら、よく分からなくなって…
あの青年は彼女の事を何だと言っていた?
彼女は、何故…ッ……痛…痛い、頭が…」
「肉体の方の苦痛が影響しているようだね。 記憶障害も出ている…
でも、まだ『命綱』はしっかりしているから死にはしないさ。
帰ろうという意思さえあれば、すぐ戻れるよ。
記憶も、肉体に戻ればはっきりするだろう」
「…思い出したくないな…嫌だ、戻りたくない」
「じゃあ…死ぬ?
さっきから、君を呼ぶ声が聞こえるのに。
僕は君を『片桐』と呼んでいるけれど…それは君をそう呼ぶ声が聞こえたから。 だから君の名を知っていたんだよ」
「…『カタギリ』と…僕を名字で呼ぶのは…
彼、か…!?」
「もしかして、蜜柑を詰めた相手? 早く行かないと、また喧嘩になるんじゃあないのかい。
言い忘れたけれど、生き霊が生きていられるのは約24時間…あんまり肉体を留守にしていると命綱が解けてしまうからね」
「もう彼とは、下らない喧嘩をして笑えないかもしれないんだよ…」
「でも、必要とされているんじゃあないのかい」
「…そうかな…
まだ、そうなのかな 『カタギリ! 居るのは分かっているぞ! 私は我慢弱い、開けないのなら扉を壊す!!』 …ああ、僕にも聞こえた…
参った、怒ってるなぁ」
苦笑いをした片桐の身体が、ふわりと浮いた。
「帰る気になったようだね」
「…ああ、戻ってみるよ。 思い出したら後悔するのかもしれないけど…呼ばれてるからね。
じゃあ…また。
ここは霊界だと言ってたね…死んだら、また君達に会えるんだろう?」
「忘れているかもね、君が死ぬのは300年以上も先だ。
それに、肉体に戻って目覚めれば、ここでの事は覚えてはいない。 だってほら、これは夢だし。
…さようなら、だよ」
「…そうだった、凝った設定の夢だなぁ…
でも…また」
「…うん…いつか、また」
互いに手を振り、笑い合う。
そして片桐は、すう、と消えていった。
「でも、当分は来ないで…」
祈るように呟いた朔夜の声は、届いたろうか。
「…貴様が彼に妙に優しいのは何故だ、アズライト」
片桐の為に、朔夜によって身ぐるみ剥がされ、レナに着ぐるみを着せられ、一人で割を食った形の柊は少し拗ねたように言う。
「嫉妬?」
「撃つぞ」
「無駄だと知っているよね、それに正月だ…やめてほしいな、柊君。
そうだな、彼に優しくしたのは…ポニテだから、いや、お客さんだし」
「いかにも付け足しだな…ポニーテールの髪なら誰でも良いのか貴様は。
貴様が片桐氏の相手をしてる間に、当事務所のポニテはもう来てるぞ。 コエンマ様もいらした」
「あ…いつの間に…」
賑々しい声の聞こえる方を見やれば、秘書のあやめや青鬼ジョルジュと写真を撮り合い、カメラに向けて笑顔を咲かせるぼたんと、澄まし顔で隣に並ぶコエンマがいた。
時間遡行のはぐれ霊が出現したという異常事態、そもそも見慣れない人物が事務所にいたというのに、全く気にもせず盛り上がっている暢気な面々に朔夜は苛立たしげな溜息を吐く。
「正月早々だけど、怒ろうかな…」
「大事には至らなかったし、片桐さんも無事に帰せたんだから良いじゃない。
正月からつまんないヤキモチ焼いてるんじゃないわよ」
「焼いてない」
「いいや、かなりの火力で焼いていると見た…
少 し 寒 い 思 い を し た 方 が 良 い ん じ ゃ な い の か ?」
「…ハッ!? その手に持ってるのは…!!」
柊の発する不穏な霊気を察して振り向きざま飛び退いた朔夜は、彼が手にしている白黒斑模様の衣装に青ざめ、思わずレナを見る。
「うふふ、私からのお年玉よ。 柊、手伝いなさい!!」
「合点承知、これで溜飲も下がるというものだ!」
じりじりと間合いを詰められ、ついに壁際に追い込まれる。
それでも朔夜は大窓のカーテンの中へ逃げ込み、抵抗を続けた。
「最悪のタッグだよ、お前ら!! ちょ、やめろ! 離せぇぇぇ!!」
レールから外れるカーテン、その下で、朔夜が断末魔を叫んだ。
無理やり着ぐるみを着せられて半泣きだった朔夜が、困ったような照れたような半笑いへとその表情を変化させたのは、ぼたんが揃いの衣装に着替えて来た時だった。
「私からのお年玉だって言ったでしょ」
「今日の貴方が朔夜さんに妙に優しいのは何故なの、レナ」
「そんなの決まってるじゃない、あやめ…後で突き落とすと楽しいからよ」
「で、あのオチには満足なんですか~?」
「もちろんよジョルジュ、良い初笑いだったと思うわ。
…柊、貴方には貧乏籤を引かせてしまったけど」
「俺よりもコエンマ様がお気の毒だが…」
何を着せても似合うと褒めちぎった朔夜と、色気が足りないと露出を要求したコエンマは、共々ぼたんの恥じらい攻撃…櫂による棒術…の餌食となり、絨毯に沈んでいた。
「…可愛いは正義…」
「…うむ同感じゃ…」
「んもう、朔夜もコエンマ様も! まだそんな事言って…恥ずかしいじゃないですか!!」
ビュン、と風切り音、次いでゴツン、と打撃音…
「…ウゴァ!!!!」
「起きたか、カタギリ」
「うう…久しぶりの挨拶がそれかいグラハ… な…何だい、その格好…!!!」
「…新型の開発を急いでもらいたい。 貴官の力が必要だ…待っている。
それだけ言いに来た…然らば」
「………ああ…何か面白い夢を見ていた筈なのに…今のですっかり忘れてしまったじゃないか…
まったく、君って奴は…本当に予測不能な人だよ…
ふ…ハハハ…ハハハハハッ…
……ソレスタルビーイング…」
荒れた部屋、壁に飾っていた写真の額が床に落ちて割れていた。
写真の中の過去には戻れないのだというように。
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